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「AIはアリババクラウド」だけでは不十分?複雑化するクラウド市場で企業が選ぶべき道とは

AI business meeting cloud computing strategy - 「AIはアリババクラウド」だけでは不十分?複雑化するクラウド市場で企業が選ぶべき道とは

空港で目にした「AI,就上阿里云(AIならアリババクラウド)」の広告。一見力強いこのメッセージが、実は多くの企業の意思決定者に響いていない現状が、中国のクラウド市場で課題となっています。かつて「コスト削減」が主軸だったクラウドサービスは、AIやデータ基盤など多岐にわたる技術の集合体となり、その複雑さが伝達の壁を生んでいます。

本記事では、中国ITメディア「36kr」の分析を基に、複雑化するクラウドサービスの宣伝問題と、国内外の主要ベンダーが試みる戦略、そして日本企業がクラウド選定において考慮すべきポイントを深掘りします。

激化するクラウド市場の「認知戦」:なぜメッセージは届かないのか

かつてクラウドサービスは、「自社でサーバーを持たなくて済む」「必要な時に必要なだけ使える」といった、コスト削減と柔軟性という明確なメリットで企業に導入されてきました。「クラウド=コスト削減・効率化」というシンプルなメッセージは、多くの企業の意思決定者に響き、導入を後押ししました。

技術の複雑化と専門用語の氾濫

しかし現在、クラウドはもはや単なるインフラ提供に留まらず、AI大規模言語モデル、データベース、データミドルウェア、IoT、ローコードプラットフォーム、セキュリティといった、個々に専門的な技術が複雑に絡み合う「技術のフルコース」へと進化しました。

ベンダーのプレゼンテーションは、先進的な技術用語や専門的な概念が並び、ますます魅力的になっているように見えます。しかし、企業のCEOやCFOといった意思決定層がこれらの専門用語を前にすると、第一に「分からない」、第二に「結局何がメリットなの?」という疑問を抱きがちです。技術は進歩する一方で、メッセージの難易度も高まり、結果として伝わらないという皮肉な状況が生まれています。

意思決定チェーンの長期化と対象の多様化

以前は、クラウド導入の意思決定は主にCTOや技術責任者が担っており、性能、安定性、SLA(サービス品質保証)といった技術指標が重視されていました。しかし今日では、クラウド導入は企業の戦略全体に影響を及ぼすため、意思決定に関わる層が多様化しています。

CTOは技術的な性能やアーキテクチャに関心を寄せ、CFOはコストモデルを注視し、CEOはクラウドが新たな市場開拓や戦略的転換にどう貢献するかを考えます。さらにマーケティング責任者は、クラウドが新規顧客獲得やブランド力向上にどう役立つかを検討します。このように多様な関係者が増えるほど、各々のニーズが錯綜し、ベンダーの一方的なメッセージでは誰も納得できないという問題が発生しています。

また、アリババクラウド、テンセントクラウド、バイドゥクラウドといった主要ベンダー間で、IaaS(インフラストラクチャ)やPaaS(プラットフォーム)レベルでの技術的差異が縮小していることも、差別化を難しくしています。性能指標や価格帯が「ほぼ同じ」になってしまうと、企業は明確な選択理由を見出せず、結果的に「どこも同じようなことを言っている」という印象を与えてしまいます。

国内外クラウド大手の「伝達戦略」とその課題

それでは、複雑化する市場で主要なクラウドベンダーはどのようにメッセージを伝え、課題を解決しようとしているのでしょうか。

中国主要クラウドの戦略と問題点

中国国内の主要3社は、それぞれ異なる戦略を取っています。

  • アリババクラウド:技術力を強調
    「世界一の市場シェア」「コア技術の優位性」といった技術力や市場リーダーシップを前面に押し出し、「AIならアリババクラウド」といった硬派なスローガンを掲げます。しかし、このメッセージは、企業トップ層からすれば「技術力がビジネス成長にどうつながるのか」が見えにくいという課題があります。
  • テンセントクラウド:エコシステムを強調
    「クラウド+WeChat」という、同社の強力なソーシャルエコシステムとの連携を重視します。ミニプログラムや動画アカウント、ゲーム、広告といった同社独自のサービスとクラウドの融合をアピールし、具体的なビジネスシーンでの活用を訴求します。しかし、「テンセントのエコシステム外でも使えるのか?」という懸念を抱く顧客も少なくありません。
  • バイドゥスマートクラウド:AIに特化
    近年はAI、特に大規模言語モデルと「AIネイティブクラウド」に全力を注いでいます。この戦略は話題性を生みやすいものの、多くの企業がまだERPのクラウド移行や既存システムへのAI連携といった初期段階にある中で、「AIネイティブ」というメッセージは現状のニーズからかけ離れていると感じられる場合があります。結果として、ベンダーの「独りよがり」に終わってしまうリスクを抱えています。

海外主要クラウドの戦略と成功要因

一方、海外の主要クラウドベンダーは、異なるアプローチで顧客にメッセージを届けています。

  • AWS:顧客事例に特化
    技術的な詳細を語ることは少なく、「某企業がAWSを利用してコストをどれだけ削減したか」「某銀行がAWS上でどれだけの拡張を実現したか」といった具体的な顧客事例を徹底的にアピールします。これにより、顧客は「AWSを選ぶ=業界標準を買う」という認識を持ちやすくなります。
  • Microsoft Azure:一体型生産性を強調
    クラウドの技術パラメーターを細かく説明する代わりに、「ExcelデータがAzureに一括で連携できる」「TeamsのコラボレーションツールとERPシステムを統合できる」といった、業務生産性向上に直結するシナリオを提示します。これにより、CEOは「Azureを導入すれば従業員がより効率的に働ける」と直感的に理解できます。
  • Google Cloud:データ+AI、開発者コミュニティを重視
    「データ+AI」に焦点を当てた簡潔なスローガンを掲げ、ハッカソン、オープンソースプロジェクト、開発者カンファレンスなどを通じて、開発者コミュニティからの支持を獲得します。開発者がその価値を認めれば、企業のCTOも導入を検討するという戦略です。

これらの事例から見ると、海外大手は「AWSはコスト削減」「Azureは効率化」「GoogleはAIとデータ」と、一言で顧客の課題解決につながるメッセージを明確に伝えています。対照的に、中国のベンダーのメッセージは、技術の優位性やエコシステム、AIの最先端を包括的に伝えようとするあまり、結局どこにも響かないという状況に陥っていると言えるでしょう。

「伝わる」クラウド宣伝の鍵:情報格差の解消と具体的ユースケース

では、どうすればクラウドのメッセージは顧客に「伝わる」ようになるのでしょうか。それは「誰に伝えるか」だけでなく、「同じメッセージが異なる層にどう響くか」という視点も必要です。

クラウドの階層構造を明確に伝える

まず、クラウドの複雑な構造を、誰にでもわかる言葉で説明することが重要です。クラウドは大きく分けて以下の階層に分かれています。

  • IaaS(Infrastructure as a Service):サーバー、ストレージ、ネットワークなどの基盤を提供する「電気・ガス・水道」のようなもの。主にCTOやインフラ担当者が関心を持つ層です。
  • PaaS(Platform as a Service):データベース、ビッグデータプラットフォーム、ミドルウェアなど、開発者がアプリケーションを構築・実行するための環境やツール。開発者やAPI利用者が重視します。
  • SaaS(Software as a Service):完成されたアプリケーションをサービスとして提供。ビジネス部門やマーケティング部門が直接利用する層です。
  • さらに、AIや業界特化型ソリューションがSaaSの上に提供されます。これらは経営層がビジネス戦略との関連で注目します。

近年では、複数のクラウドを統合管理するMCP(Multi-Cloud Management Platform)も登場し、CIOや技術責任者がベンダーロックインを回避するために注目しています。これらの階層と、それぞれがどの役割の担当者にメリットをもたらすかを、シンプルに伝えることが、情報格差を埋める第一歩となります。

業界・シナリオに特化した具体的な成功事例

企業がクラウド導入を決定する際、抽象的な「世界をリードするクラウドサービス」といった言葉では動機付けにはなりません。むしろ、「小売業界において、当社のサービスが顧客のコンバージョン率を15%向上させました」といった具体的な成功事例の方が、はるかに説得力があります。なぜなら、業界特有の課題解決事例は、顧客が自社のビジネスに置き換えて考えやすく、即座に「自分たちも導入すべきか」という検討につながるからです。

AWSはこの点で非常に優れています。例えば金融業界であれば、とある銀行がAWSのAIモデルと計算能力を活用し、リスク評価時間を24時間から1時間未満に短縮した事例や、自動車金融サービスで、数千ものグローバル口座をAWSで管理し、セキュリティアラートの対応時間を数日から数分に短縮した事例などが詳細に紹介されています。ウェブサイト、発表会、ホワイトペーパーに至るまで、顧客のビジネス背景、解決策、具体的な効果が細かく提示されており、それが信頼と実績の証明となっています。

日本の企業がクラウド導入を検討する際も、単なる機能比較に留まらず、自社の業界や具体的なビジネス課題を解決した成功事例を持つベンダーを重視すべきです。このような視点を持つことで、クラウド導入による真の価値を享受できるでしょう。

まとめ

中国のクラウド市場が直面する「伝わらない宣伝」問題は、日本企業にとっても無関係ではありません。クラウド技術の進化と複雑化は世界的な潮流であり、ベンダー側が顧客の意思決定層の目線に立ち、具体的なビジネス価値を提示できるかが重要ですし、企業側もそれを読み解く目を持つ必要があります。

単なる技術スペックの羅列ではなく、企業が抱える課題を解決し、どのような未来を描けるのかを明確に伝えること。そして、マルチクラウド時代の到来を見据え、各クラウドが自社のビジネスにどう貢献するのかを深く理解することが、これからの日本企業には求められます。情報過多の時代において、真に「伝わる」メッセージを見極める力が、ビジネスの成功を左右する鍵となるでしょう。

元記事: 36氪_让一部分人先看到未来

Photo by cottonbro studio on Pexels

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