世界最大の半導体メーカーである韓国サムスン電子で、設立以来最大規模となる全面ストライキが5月21日から実施されます。約5万人の従業員が参加するとみられるこの事態は、単なる企業と労働組合の対立にとどまらず、グローバルな半導体供給網と韓国経済全体に甚大な影響を及ぼすと懸念されています。賃金交渉の決裂が引き金となった今回のストライキは、一体どのような背景があり、どのような影響をもたらすのでしょうか。
サムスン電子、史上最大のストライキに突入
5月21日から6月7日までの18日間、サムスン電子の従業員が大規模なストライキを決行します。これは同社設立以来で最大規模であり、世界半導体業界の歴史上でも、参加人数と影響範囲において最も広範なストライキとなる見込みです。労働組合側は会社との調整案に合意したものの、会社側がこれを拒否したため、交渉は決裂に至りました。
大規模なストライキ決行の背景
今回のストライキの導火線となったのは、2026年の賃金交渉の決裂です。今年の3月中旬には、6万6000人を超えるサムスン電子労働組合の組合員がストライキ投票に参加し、実に93.1%もの高い賛成率でストライキを支持しました。これにより、従業員の間に強い民意の基盤があることが示されました。半導体(DS)部門の総従業員数の64%にあたる約4万5000人から5万人がこの行動に参加すると予測されています。
要求と交渉の決裂点
労働組合は、ボーナスを会社の年間営業利益の15%(以前の予測では約300億ドル相当)として固定し、現行の基本給の50%というボーナス上限を完全に撤廃するよう要求しています。これに対し、サムスン電子の会社側は、「営業利益の10%」または「経済付加価値(EVA)の20%」のいずれかを選択する二つの案を提示するに留まりました。さらに会社側は、2026年の一時的な手当の提供には応じるものの、ボーナス規則の恒久的な調整は拒否したため、交渉は平行線をたどり、最終的に決裂に至ったのです。
半導体生産の特殊性とリスク
半導体生産は24時間ノンストップで稼働するという特殊な性質を持っています。一度生産ラインが停止してしまうと、既に投入されているウェーハは全て廃棄せざるを得ません。特に、ハイエンドなウェーハ一枚の価値は2万ドルにも上るため、その経済的損失は計り知れません。実際に今年4月には、サムスンで単日ストライキが発生し、ウェーハ受託生産量が58%減、ストレージ生産量が8%減という影響が出ており、半導体業界におけるストライキの巨大なリスクが露呈しています。
壊滅的な経済損失とサプライチェーンへの波紋
今回の18日間にわたる全面ストライキが実行された場合、サムスン電子に与える経済的打撃は甚大です。
数千億円規模の直接的損失の可能性
業界の試算によると、通常DRAMの製造工程で3〜4ヶ月分、HBM(高帯域幅メモリ)の製造工程では最大7ヶ月分の製造中のウェーハが廃棄されることになります。これにより、直接的な経済損失は30兆〜100兆韓国ウォン(約3兆4000億円〜11兆3000億円)にも達すると予測されています。この事態を見越し、サムスンは既に生産の「冷却」措置を発動し、新たなウェーハの投入量を自主的に削減する動きを見せています。
モルガン・スタンレーのアナリストは、生産停止による収入損失だけで4兆韓国ウォン(約4500億円)を超えると試算しており、最悪の場合、損失規模は140億〜207.9億米ドル(約2兆2000億円〜3兆2000億円)に拡大する可能性も指摘しています。また、労働組合の要求が全面的に受け入れられた場合、人件費の上昇だけでサムスン電子の2026年営業利益が7%〜12%減少するとも予測されています。
世界経済と韓国経済への懸念
このストライキの影響は、もはや一企業の枠を超え、韓国国家経済の安定に関わる重大な事態として認識されています。韓国の金民錫(キム・ミンソク)首相は、サムスン電子が韓国の輸出総額の22.8%、株式市場全体の時価総額の26%を占め、12万人以上の従業員を雇用し、1700社ものサプライヤーと連携している点を強調。「ストライキによる損失は破滅的になる」と警告しました。韓国銀行(中央銀行)も、18日間のストライキが2026年の韓国経済に影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしており、その影響はグローバルな半導体供給網にも避けられないでしょう。
まとめ
今回のサムスン電子のストライキは、単一企業の問題に留まらず、世界の半導体産業全体に大きな影響を与える可能性があります。特に、AIブームを背景に需要が急増しているHBMなどの先端メモリの供給に遅延が生じる恐れもあり、日本のIT・エレクトロニクス業界にも間接的な影響が及ぶかもしれません。事態の推移によっては、部品調達や価格変動といった形で、私たちの身近な製品にも影響が及ぶ可能性も考えられます。今後の労使交渉の行方、そして世界の半導体市場がこの事態にどう反応するかに注目が集まります。
元記事: mydrivers












