世界の投資銀行大手ゴールドマン・サックスが、香港オフィスでの採用を大幅に強化しています。これは、世界の資本の流れが中国市場に集中し、アジア太平洋地域の事業需要が急増していることへの対応です。特に今年の香港IPO(新規株式公開)市場では圧倒的な存在感を示し、その裏には数々の中国大手企業の成功がありました。単なる偶然ではなく、市場の「熱気」が戻りつつある明確な兆候と言えるでしょう。
香港市場の活況とゴールドマン・サックスの攻勢
ゴールドマン・サックスのアジア太平洋地域(日本を除く)統括責任者であるケビン・スニーダー氏によると、業務量の増加に伴い、香港での採用活動が前年比で加速しています。LinkedInの求人リストを見ても、投資銀行部門の中国コンサルティングサービスアナリスト、TMT(テクノロジー・メディア・通信)分野のアナリスト、資産運用部門の金融アナリストなど、30を超えるポジションが募集されています。
注目すべきは、香港のサマーインターンシップにおける正規雇用への転換率が、従来の50%から驚異の90%へと急上昇している点です。これはまさに「人材争奪戦」の始まりを示唆しています。今年の7月、ゴールドマン・サックスが恒例の年間人員削減を停止すると発表したことも、この動きと無関係ではないでしょう。
スニーダー氏が強調するように、香港市場の堅調な取引実績がチーム拡大の基盤となっています。今年7月までのデータでは、ゴールドマン・サックスが主導または参加したIPOおよび増資の総額は56億ドル(約8,000億円相当)に達しています。これには、バッテリー大手のCATL(寧徳時代)、人気スイーツチェーンのMixue Bingcheng(蜜雪氷城)、高級白酒ブランドの貴州茅台、カナダの資産運用会社ブルックフィールドといった、著名企業の名が並びます。
大型IPOでの存在感
今年最大のIPOの一つであるCATLの香港上場では、主幹事の座は逃したものの、ゴールドマン・サックスは全体コーディネーターとして重要な役割を果たしました。ブルームバーグの報道によると、総額26億ドルの基礎資金調達のうち、11.5億ドルをクウェート投資庁や中国石油化工(香港)を含む投資家に配分。これはモルガン・スタンレーやバンク・オブ・アメリカなど、4社の共同主幹事の総発行額に匹敵する規模でした。さらに、Xiaomi(シャオミ)グループ、BYD(比亜迪)、Haitian Flavoured Food(海天味業)といった中国の大手企業の大型取引においても、同社は鍵となる役割を担っています。
ゴールドマン・サックスのアジア(日本を除く)株式資本市場共同責任者である王亜軍氏は、「中国が継続的に打ち出す経済優遇政策とテクノロジーの発展が、世界の投資家の中国資産への注目度を高めている。オフショア中国市場には膨大な機会があることを人々は認識し始めている」と述べています。
アジアIPO市場を牽引するゴールドマン・サックス
今年の香港市場では、10億ドルを超えるIPOが6件ありましたが、そのうち5件をゴールドマン・サックスが主導しました。これは、今年のアジア(日本を除く)株式資本市場で投資銀行として首位にランクインする実績であり、香港IPO発行における国際投資銀行としてもトップの座を確保しています。
業界内では、ゴールドマン・サックスの動きはしばしば市場全体のトレンドを示す指標と見なされます。あるベンチャーキャピタル投資家は、「今年は友人の間でIPOの祝賀が増えたという明確な感覚がある」と、中国市場の好況ぶりを語っています。今年の香港IPO市場は爆発的な成長を遂げており、最初の8ヶ月間で集められた資金は1,345億香港ドルに達し、前年比で579%もの驚異的な増加を記録しました。多くの新規株式が数千倍もの応募超過となるなど、まさに熱狂状態です。
まとめ:中国市場の「熱気」が金融業界を動かす
ゴールドマン・サックスの大規模な採用強化は、中国経済の堅調な成長と、特に香港市場におけるIPOブームが背景にあることが明らかになりました。世界の投資マネーが中国資産に強い関心を示しており、金融機関はこれに対応するため、人材とリソースを集中させています。これは、かつて「世界の下請け工場」と称された中国が、今やグローバルな投資の中心地となりつつあることを象徴する動きと言えるでしょう。日本企業にとっても、中国市場の活況は無視できないビジネスチャンスであり、この動向を注視する必要があるでしょう。金融の最前線で何が起きているのか、今後もその動きから目が離せません。
元記事: pedaily
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