中国の大手ゲーム企業である網易(NetEase)が、米国テキサス州オースティンに設立したゲームスタジオ「T-Minus Zero Entertainment」をわずか2年で閉鎖したことが明らかになりました。元BioWareの著名な開発者Rich Vogel氏が共同創設者を務め、大規模なSFマルチプレイヤーゲームの開発を進めていた同スタジオですが、厳しい市場環境での資金調達難が閉鎖の主因とされています。これは網易にとって初めての海外スタジオ閉鎖ではなく、中国ゲーム業界全体が直面する構造変化とグローバル戦略転換の動きを象徴する出来事として注目されています。
短命に終わった期待のスタジオ「T-Minus Zero Entertainment」
T-Minus Zero Entertainmentの閉鎖は、共同創設者のRich Vogel氏が自身のソーシャルメディアで「網易との旅が終焉を迎える」と発表した数日後に正式に確認されました。同スタジオは2023年8月に網易の投資を受け設立され、BioWareやBethesdaといった大手スタジオ出身のベテラン開発者が多数在籍。新しいSF IPに基づいた三人称マルチプレイヤーアクションゲームの開発を進めていました。Vogel氏は当時、「グローバルプレイヤーが共に遊び、活気あるコミュニティを形成できる、壮大で没入感のある世界を創造すること」を使命として掲げていました。
網易はスタジオに対し、十分な開発スペースや資金、そして完全にプレイ可能なデモ版を制作するための時間と予算を提供し、潜在的な投資家探しにも協力していたとVogel氏は感謝を述べています。しかし、「現在の市場環境では、必要な資金を確保することができなかった」と閉鎖の理由を説明しました。スタジオ設立からわずか1ヶ月後には、Vogel氏自身がマルチプレイヤーオンラインゲームには多額の資金が必要であり、現在の業界環境での資金調達は困難であると示唆しており、これが今回の閉鎖に繋がった主要な要因の一つと考えられています。
加速する網易の海外事業再編と業界の現実
網易もT-Minus Zero Entertainmentの閉鎖を正式に認め、「慎重な検討の末に下された決定であり、私たちは事業の優先順位を再評価する必要があった」とコメントしています。
実は、網易が海外スタジオを閉鎖するのは今回が初めてではありません。今年初めには、外資系メディアGamesbeatが、開発中の『漫威争锋(Marvel Rivals)』に携わるシアトル開発チームが縮小されたことを報じていました。また、業界イベント「DICE 2025ゲームサミット」では「中国ゲーム企業による投資撤退に関する議論があちこちで聞かれ」、欧米ゲーム業界に不安が広がっていたことも伝えられています。さらに以前には、網易は米国のWorlds UntoldおよびJar of Sparksスタジオも削減しています。
網易はこれらの動きに対し、「当社の投資戦略の一環として、2023年末にこれら2つのスタジオの規模縮小を開始しました。この決定は完全に商業的評価に基づくものであり、他の要因に影響されたものではありません」と説明しています。また、「今回の調整は当社の海外スタジオポートフォリオのごく一部に過ぎず、北米、英国、スペイン、日本のスタジオは引き続き開発プロジェクトを推進し、最適化を進めています」と述べ、海外市場開拓の計画自体は揺るがない姿勢を示しています。
網易の構造調整は海外だけでなく、国内事業でも進行しており、最近では今年7月に開発中止となった『万民长歌:三国』の事例があります。中国国内の競合大手である騰訊(Tencent)も、既に「長青ゲーム戦略」(Evergreen Game Strategy:長期的に収益を上げる既存の主力タイトルに注力する戦略)を確立しており、海外投資も業界トップクラスか、それに匹敵する可能性のある製品に限定するなど、より厳選された戦略に移行しています。
グローバルゲーム市場の変曲点と日本の視点
中国のゲーム業界メディアGameLookは、市場が成熟期に入り、ほとんどの分野で既存の「長青ゲーム」が市場を独占している現状を指摘しています。そのため、成功の可能性が低い新規プロジェクトは、ゲームメーカーにとって「最適化」(すなわち削減)の対象となりやすいと分析しています。このような状況は中国企業に限らず、欧米の大手企業や中堅・小規模スタジオでも人員削減、サービス終了、さらにはスタジオ閉鎖のニュースが後を絶ちません。少なくとも短期的には、これがゲーム業界の新たな常態となる可能性が高いでしょう。
このグローバルなゲーム市場の変曲点は、日本のゲーム開発者や市場にも大きな影響を与える可能性があります。中国企業の海外投資戦略がより慎重になることで、新たな資本流入の機会が減少する一方、競争の激化は日本のスタジオにも新しいアイデアや品質への高い要求を突きつけることになります。市場の厳しさに対応するためには、高品質なゲームを効率的に開発し、グローバル市場で独自の強みを発揮する戦略が、これまで以上に重要となるでしょう。
元記事: gamelook
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