中国の巨大IT企業テンセント(Tencent)が、英国のゲーム開発業界を積極的に支援する動きを見せています。英国インタラクティブ・エンターテインメント協会(ukie)と共同で「電子ゲーム成長計画」の申請受付を開始し、新興スタジオから高成長企業まで、包括的な育成プログラムを提供すると発表しました。しかし、このグローバルな動きは、中国国内のゲーム開発者からは「羨ましい」という複雑な感情を持って受け止められています。なぜテンセントは英国を重点的に支援し、そしてなぜ中国の開発者はそれに「酸っぱい」視線を送るのでしょうか。
テンセントの新たなグローバル戦略:英国ゲーム支援の全貌
北京時間9月10日、ukie、テンセント、英国ビジネス・貿易省の協力のもと、「電子ゲーム成長計画」の第2年目プロジェクトが正式に始動しました。この計画は、昨年から続く「アクセラレーター」(新興スタジオ向け)と「規模化」(高成長企業向け)のデュアルトラック設計を採用しています。参加者は、メンターからの指導、専門家によるコース、投資家とのマッチングといった手厚いサポートを受けられます。コース内容は、資金調達、ビジネス戦略、運営、そしてグローバル展開といった、ゲーム開発から企業成長に至る全チェーンの能力を網羅しています。
なぜ英国が選ばれたのか?
今回の英国との協力は、テンセントの突発的な思いつきではありません。これは長年続く「TGIF(テンセント・ゲーム・イノベーション基金)」計画の自然な延長と見られています。テンセントは数年前から英国の業界団体と連携を深め、欧米の中小ゲームチームへの投資を広範に行ってきました。英国はヨーロッパ最大のゲーム市場(規模70億ポンド以上、ユーザーカバー率50%超)であり、その深い創造的遺伝子と成熟した中小企業のエコシステムは、テンセントにとって戦略的に重要なパートナーです。テンセントのパートナーシップ・投資担当副社長であるマーク・マスロウィッチ氏も、「初期のスタジオを支援することで、英国を世界のゲーム開発の中心地として強化している」と述べています。
中国開発者の「羨望」のまなざし:国内ゲーム産業の現状
テンセントが英国ゲーム業界を支援するという情報が報じられた後、中国のゲーム開発者の間では、少なからず複雑な感情が広がっています。多くの中国開発者にとって、まったく羨ましくないと言えば嘘になるでしょう。なぜなら、英国のゲームチームが得られる「ビジネス戦略」や「国際化運営」といった「実践的なスキル」こそ、中国の中小ゲームチームが最も不足している「生き残りの術」だからです。
大手寡占と中小企業の「地獄難易度」
この感情の背景には、中国ゲーム産業の厳しい現実があります。中国音像・デジタル出版協会ゲーム工委員会のデータによると、2024年の国内ゲーム市場の実質売上高において、テンセントやネットイース(NetEase)といった大手企業が70%以上を占めています。中小チームが大手企業の狭間で成長し、基本的なスタートアップから持続可能な競争力を持つ企業へと脱皮することは、「地獄の難易度」とさえ言われています。国内の多くの小規模チームにとって、大手企業の投資を受けたくないのではなく、そもそも選択肢がないのが現状です。テンセントの国内投資は、すでに実績や成功作品を持つチームに集中しており、真に初期段階のスタートアップを対象とした体系的なインキュベーションやトレーニングシステムは、業界では稀です。英国の卒業生スタジオがテンセントからゼロからの「アクセラレーター」支援を受けられる一方で、中国国内の同段階の小規模チームは、手探りで進むしかないというギャップが浮き彫りになっています。
プラットフォーム支援と投資のギャップ
公平に見て、テンセントが中国市場を軽視しているわけではありません。特に新型コロナウイルス感染症流行後、テンセントの投資部門は一時的に非常に活発で、2021年には対外投資が過去10年で最高の296件に達し、多くの国内ゲームチームも含まれていました。しかし、この潮流は2023年以降明らかに減速しています。その根本的な原因は、質の高い投資対象の希少化にあります。長年の選別を経て、市場に出回る有望な国内チームは、テンセント、バイトダンス、Bilibiliといった大手企業によってほぼ独占されてしまいました。
直接投資以外では、テンセントの国内戦略は、よりプラットフォームによる支援に重点を置いています。WeChatミニゲームのエコシステム台頭はその教科書的な事例です。2025年上半期の国内ミニプログラムゲームの実質売上高は232.76億元(約4655億円)に達し、前年同期比40.20%増という驚異的な成長を遂げました。その大部分はWeChatミニゲームによるものです。これにより、既存のApp市場で大手と対抗できない多数のチームに生存空間を提供しており、特に広告収益型ゲーム(IAAゲーム、34.30%を占める)は中小チームの生存の鍵となっています。ある意味で、WeChatミニゲームはテンセントが作り上げた「中国版Roblox」とも言えるでしょう。
しかし、プラットフォームのトラフィック支援だけでは、体系的な能力構築を代替することはできません。ミニゲーム分野では、テンセントが直接投資・育成し、最終的にトップメーカーに成長した典型的な事例は、今のところ見られません。その役割は「収穫者」であって「播種者」とは言えません。英国の計画と比べると、英国の参加者は資金だけでなく、「資金調達―戦略―運営―グローバル化」という完全な知識体系を得ているのです。
中小チームが本当に求める「生存指南」
テンセントゲームアカデミーは毎年公開講座を開き、多くのテンセントのトッププロジェクトが講演を行っていますが、その内容は大手企業の方法論と資金力に基づいたものが多く、中小チームの開発、ビジネス、投資、海外展開に直接役立つ実践的なコースはまだ少ないのが現状です。大手チームが必要とする開発プロセス管理や高度な技術といったニーズに対し、中小チームがより必要としているのは、「極めて低コストで遊び方を検証する方法」「小規模チームに適したアジャイル開発プロセスの設計方法」「海外のニッチ市場への的確なターゲティング方法」といった「生存指南」です。これらの地に足の着いた課題こそ、現在の中国国内ゲーム業界の知識共有体系における盲点となっています。
『黒神話:悟空』がAAAタイトルとしての品質で世界を驚かせたとき、中国の開発者は興奮と同時に不安も感じました。「数年にわたる開発に投資する勇気があるか?資金が枯渇したらどうするか?」テンセントなどの大手企業は、シングルプレイ市場の台頭に高い関心を寄せていますが、初期のシングルプレイゲーム開発企業への支援は、テンセントのWegameプラットフォームでのサポートに限定されており、体系的なトレーニングシステムは提供されていません。英国計画における「規模化」トラックの高成長企業への定向支援は、このような課題を解決する実行可能な道筋を示しています。
まとめ:グローバル戦略が国内にもたらす示唆
ゲーム産業の繁栄の根幹は、「百花繚乱」、すなわち多様な才能が花開くことにあります。英国のチームが体系的な計画を通じてビジネス能力を補強する一方で、中国の開発者もまた、自国の状況に合った成長の階段を必要としています。もしテンセントが海外での支援経験を国内にフィードバックできるならば、多くの開発者から歓迎されるでしょう。ゲーム産業の競争の本質は、創造的なエコシステムの競争です。テンセントが海外でスタートアップの苗床を丹念に育む一方で、中国本土の土壌も同様に恵みの雨を求めています。真のグローバル競争力は、自国の庭が色とりどりの花で満ちていることから始まるのです。
元記事: gamelook
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