米国のソフトウェア大手SAS Instituteが、25年にわたる中国市場での直接事業運営を停止し、完全撤退することを発表しました。この決定により、中国で働く全400名の従業員が解雇対象となりますが、N+2(勤続年数に応じた月給+2ヶ月分)に加え、年末賞与、さらには2025年末までの給与まで含む、異例の手厚い補償が提供されるとのことです。かつて中国で「最高の雇用主」として知られたSASに何が起きたのでしょうか。激化する米中関係とグローバル企業の中国事業戦略について考察します。
25年の歴史に幕:突然の撤退発表と異例の補償
SAS Instituteは、10月30日に社内メールで中国市場からの撤退を従業員に通知し、短いビデオ会議も開催しました。北京の従業員の一人によると、同社は中国での25年間の事業を終え、全面的に撤退するといいます。同時に、中国で働く約400名の従業員全員を解雇し、11月14日までに退職合意書への署名を求めています。
会社側は、この撤退を「組織最適化」の結果と説明し、中国の従業員たちのこれまでの貢献に感謝の意を表明しました。SASの広報担当者は、「SASは中国における直接的な事業運営を停止します。この決定は、当社のグローバルな運営モデルのより広範な変革を反映しており、事業展開を最適化し、長期的な持続可能性を確保することを目的としています」と述べています。
従業員への「N+2」を超える手厚い補償
今回の撤退で注目されるのは、従業員への補償内容です。通常、中国では「N+1」またはそれ以下の補償が一般的ですが、SASは以下の破格の補償を提供します。
- 勤続年数に応じた月給(N)+2ヶ月分の給与(N+2)
- 年末賞与
- 2025年末までの給与
この手厚い補償は、従業員に対する最後の配慮であると同時に、企業側の突然の決定に対する「誠意」の表れとも受け取られています。
中国市場におけるSASの足跡と今後の展望
SAS Instituteは1976年に設立され、米国ノースカロライナ州に本社を置く世界的なソフトウェア企業です。データ管理、統計分析、予測モデリング、データマイニング、ビジネスインテリジェンスなど、多岐にわたるソリューションを提供し、Microsoft、Google、Amazon、Red Hatといった大手企業を顧客に抱えています。
同社は1999年に中国市場に進出し、2005年には北京に研究開発センターとユーザーサポートセンターを設立しました。従業員の福利厚生や企業文化が高く評価され、かつては中国で17年連続「最高の雇用主」に選ばれるなど、従業員からの評判も非常に高かったことで知られています。しかし、現在はSASの簡体字中国語公式サイトは既に閉鎖され、採用情報からも中国地域が削除されています。
今後、SASは直接的な事業運営を停止するものの、第三者のパートナーシップを通じて引き続き中国で事業を展開する方針を表明しています。これは、市場から完全に手を引くわけではなく、地政学的なリスクや運営コストを考慮した新たなビジネスモデルへの転換と見ることができます。
まとめ:高まる地政学的リスクとグローバル企業の選択
今回のSASの中国撤退は、単なる一企業の事業再編に留まらない、より広範な意味を持つ可能性があります。近年、米中間の貿易摩擦や技術覇権争いが激化する中で、多くの欧米企業が中国市場における事業戦略の見直しを迫られています。
SASのように長年にわたり中国で成功を収め、「最高の雇用主」とまで評された企業が直接事業から撤退する事実は、地政学的リスクの高まりがグローバル企業の経営判断に与える影響の大きさを浮き彫りにしています。今後、同様の動きが他の企業にも広がる可能性があり、日本企業にとっても、中国市場での事業展開におけるリスク評価と戦略の見直しが喫緊の課題となるでしょう。
元記事: mydrivers
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