中国のゲームスタジオGame Scienceが開発する期待の超大作RPG『黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)』。その壮大な世界観を彩る音楽のグローバル音楽会が、先日、米国ロサンゼルスのピーコックシアターで初の海外公演を迎えました。現地時間7月7日夜に開催されたこのコンサートは、世界中のプレイヤーが注目する中国発のIPが、グローバルエンターテインメント市場でいかに存在感を高めているかを示す象徴的なイベントとなりました。
今回の北米ツアーはロサンゼルスとニューヨークの2都市のみということもあり、会場には多くの北米プレイヤーが遠方から駆けつけました。「海外初演」とはいえ、実は『黒神話:悟空』の音楽がこの舞台で響くのは初めてではありません。2024年の「The Game Awards(TGA)」授賞式では、わずか30秒ながらテーマ曲がオーケストラで演奏され、全世界のプレイヤーの耳目を集めていました。TGA史上初めて中国本土のゲーム音楽が演奏された歴史的な瞬間です。今回のロサンゼルス公演は、世界エンターテインメントの中心地であること以上に、ゲーム自体にとっても特別な象徴的意味を持っていたと言えるでしょう。
中国神話が奏でる東洋の音色
2024年のTGAで『黒神話:悟空』のテーマ曲が演奏された際、ある面白い出来事がありました。オーケストラのメドレー中に登場したある楽器について、海外の視聴者が「2分08秒のあの楽器は何?」とコメント欄で質問したのです。これに対し、中国文化に詳しいプレイヤーが「あれは唢呐(スオナー)だよ。中国の伝統楽器で、結婚式やお葬式など人生の重要な儀式で使われる、非常に響きの良い楽器だ」と答えました。
この唢呐を演奏したのは、TGAオーケストラで「Flute Guy(フルートガイ)」として知られるベテラン奏者、ペドロ・ユースタッシュ氏。彼は以前にも映画『カンフー・パンダ』の音楽を中国笛で演奏した経験があり、様々な楽器を巧みに操ることで有名です。『黒神話:悟空』の唢呐は、その年のTGAで彼が用意したサプライズの一つであり、その高く明るい音色はメドレーの中で最も印象的なパートとなりました。
しかし、『黒神話:悟空』のゲームサウンドトラックには、唢呐だけではありません。二胡、古筝、琵琶といった弦楽器から、笛簫(ディシャオ)、京劇の銅鑼や太鼓まで、多種多様な民族楽器が取り入れられています。さらに、地方劇や民謡の要素も融合させ、現代的でありながら古典的、伝統的でありながら革新的な音楽作品を創り上げています。中でも代表的なのは、仏教経典の「往生呪」を大胆にアレンジした「我也去当个天命人玩玩(私も天命人になって遊んでみよう)」という楽曲です。この曲は、仏教の経典と民族音楽、そしてエレクトロニックミュージックが融合し、ネット上では「サイバー念経」と称されるほどの幻想的な雰囲気を醸し出しています。この楽曲も、今回のグローバルツアーの曲目リストにしっかりと名を連ねています。
このように、『黒神話:悟空』の音楽は、単に異国情緒を演出するだけでなく、中国文化の内側から語られる、深く豊かな表現が特徴です。過去の西洋作品(例えば前述の『カンフー・パンダ』など)では、東洋文化はしばしば再解釈・再構築された文化素材として、普遍的な物語の枠組みに奉仕する傾向がありました。しかし、『黒神話:悟空』は異なる道を歩んでいます。海外の観客に中国文化を「説明」するのではなく、直接中国文化の内部に立ち、物語の核として『西遊記』の宗教的イメージ、文学的典故、歴史的蓄積を据えています。
2024年の『黒神話:悟空』の話題沸騰が、多くの海外プレイヤーに中国神話や伝統美術、『西遊記』の世界への深い接触を促したとすれば、今回の音楽会は、その文化体験を視覚から聴覚へとさらに広げるものと言えるでしょう。
ゲーム音楽会が持つ独自の魅力
日本のプレイヤーにとって、ゲーム音楽会は比較的新しいエンターテインメントかもしれません。しかし、実はその歴史は古く、世界初の現代的なゲーム音楽会とされる『ドラゴンクエスト』交響楽団コンサートは1987年に東京のサントリーホールで開催されています。これは、ビデオゲームから生まれた旋律が独立した芸術形式としてクラシック音楽の殿堂に入り、観客を惹きつけることを証明しました。世界的な広がりは2003年のドイツでの公演が最初で、それ以来、多くの有名ゲームIPがテーマ音楽会を開催するようになりました。
中でも最も影響力のあるのは、『ファイナルファンタジー:遠い世界』シリーズのコンサートで、20年以上にわたり世界中でツアーが続けられています。現在では、交響楽団や劇場、ツアー会社もゲーム音楽を通常の演目として取り入れるようになり、イギリスのガーディアン紙は、映画やゲームのサウンドトラックをテーマにしたコンサートが、多くのツアー交響楽団にとって最も人気が高く、興行収入を上げやすい演目の一つになっていると報じています。
ライブ音楽の魅力は、想像だけでは語り尽くせません。ロックコンサートでの熱狂的な観客を見ればわかるように、その場に身を置くことで初めて真に体感できます。プレイヤーにとって、ゲーム音楽会は単なる交響楽の演奏会ではありません。耳慣れた旋律が響くとき、それはゲームの世界に引き戻されるような共鳴感を生み出すのです。ゲームプレイ中は、操作やストーリーに集中するあまり、背景音楽が持つ潜在的な影響力を見過ごしがちです。しかし、ゲームクリア後に改めてじっくり聴くことで、音楽の細部に気づき、当時の感情や記憶が鮮やかによみがえってきます。
ゲームメディアPC Gamerの編集者モリー・テイラー氏は、ゲーム音楽会がプレイヤーにとって「お金を払う価値があるか」という問いに対し、自身の体験を最高の答えとして示しています。彼女は2025年初めに参加した『遠い世界:ファイナルファンタジー』のコンサートについて、「大好きな曲が生演奏され、大画面にゲームのカットシーンが流れたとき、私は子供のように泣き崩れた」と綴っています。
すべてのゲームのサウンドトラックが、交響楽団による本格的なコンサートに適しているわけではありません。「ファイナルファンタジー」「ゼルダの伝説」「ウィッチャー」、そして『原神』のように、音楽制作において厳密で統一された芸術的表現を持つIPだけが、ゲーム本体から独立した完全な商業公演を成立させることができます。『黒神話:悟空』は、新たにゲーム音楽会の仲間入りを果たした作品として、テーマ融合という形で独自の解決策を提示しています。
『黒神話:悟空』のサウンドトラックは、叙情的な男女デュエット曲から、「黄風起兮」や「我也去当个天命人玩玩」のような民族的・宗教的要素の強い作品、さらには86年版ドラマ『西遊記』のオマージュ曲「雲宮迅音」や「敢問路在何方」まで、非常に幅広い曲調をカバーしています。しかし、これらの異質な楽曲は、「天命人(運命に選ばれし者)」の宿命の物語という一つの筋道に統一されることで、不思議な調和を見せ、奇妙で壮大な西遊の世界を共に構築しています。さらに、『黒神話:悟空』の音楽の多くは、単なる戦闘やストーリー演出の背景BGMに留まらず、それ自体が独立した物語を語っています。例えば、第二章のテーマ曲「黄風起兮」は、多くのプレイヤーがボス「黄風大聖」だけでなく、章の冒頭で無頭の僧侶が三弦を抱え、陝北語りで歌い上げる印象的なパフォーマンスで記憶に残しています。優れた映画音楽が映画から独立して存在できるのと同じように、優れたゲーム音楽もまた、独自の生命力を持つことができるのです。
旧き継承と新たな出発点
今回の『黒神話:悟空』グローバル音楽会の曲目リストは、これまでのツアーとは異なる工夫が凝らされています。特に注目すべきは、許鏡清(許景清)氏が権利を持つ86年版ドラマ『西遊記』のテーマ曲「雲宮迅音」と「敢問路在何方」が新たに加わった点です。これは、『黒神話:悟空』が古典である『西遊記』を土台としつつも、現代の技術と感性で新たな「西遊の道」を切り開こうとする、その制作陣の深い敬意と挑戦的な姿勢を象徴していると言えるでしょう。
『黒神話:悟空』の音楽会は、単なるゲームのプロモーションイベントに留まらず、中国のIPがグローバル市場でその文化的な深さと魅力を発信する、重要なプラットフォームとなっています。ゲームという最新のエンターテインメントと、悠久の歴史を持つ中国の伝統音楽が融合することで生まれる新たな体験は、国境を越え、世界中の人々の心を揺さぶり、今後のエンターテインメントの可能性を大きく広げていくことでしょう。日本市場においても、この『黒神話:悟空』が巻き起こす波は、ゲームと音楽の新たな融合、そして異文化理解の促進において、大きな影響を与えることが期待されます。
元記事: chuapp












