Home / テクノロジー / ゲーム / 「ゲームが完成しなければ安全?」中国ゲーム業界の「斬殺線」

「ゲームが完成しなければ安全?」中国ゲーム業界の「斬殺線」

chinese game developer stressed game developer - 「ゲームが完成しなければ安全?」中国ゲーム業界の「斬殺線」

「斬殺線」という言葉が、ソーシャルメディアで密かに話題になっているのをご存じでしょうか。元々はゲーム用語で、キャラクターが回復の余地なく一撃で倒される状況を指します。しかし今、中国のゲーム業界では、この言葉がプロジェクトの失敗とそれに伴う解雇、つまり「死」を意味する隠語として使われ、多くの開発者がその脅威に怯えています。

「ゲームが完成しなければ、むしろ『斬殺』されないのではないか?」──そんな皮肉な願望さえ抱く開発者たちがいます。彼らは一体、どのような現実と戦っているのでしょうか。今回は、中国のゲーム業界に蔓延する「斬殺線」の正体と、その中で生き抜こうとする開発者たちの過酷な生存戦略に迫ります。

「斬殺線」という名の戦場

ゲーム業界に蔓延する「斬殺線」の定義

ゲームプランナーの「欢乐豆(ホワンドゥ)」さんも、キャリアの初期段階でこの「斬殺線」の洗礼を受けました。2021年に卒業後、彼女がシステム設計に携わった二次元ゲームは、リリース後1年も経たずに運営停止、会社は倒産し、彼女は職を失いました。これが彼女にとっての最初の「斬殺」だったと言います。

欢乐豆さんは、この経験から中国ゲーム業界の冷徹な法則を見出しました。それは、「ゲームの売上(流水)がプロジェクトの成否を決め、プロジェクトの成否が開発者の去就を左右する」というものです。しかし、もしプロジェクトが「ずっとリリースされなければ、失敗と判断されることもない」という皮肉なロジックが存在します。このため、多くの開発者は自分のゲームが永遠にリリースされないことを密かに祈るという、なんとも悲しい状況が生まれています。

ベテラン開発者が語る「斬殺線」の実態

20年ものキャリアを持つベテラン開発者「玄宇(シュエンユー)」氏は、「プロジェクトがある程度の規模に達した後、ちょっとしたきっかけで中止になること、そのきっかけこそがプロジェクトの『斬殺線』だ」と語ります。市場やプレイヤーの嗜好は目まぐるしく変化するため、多額の投資が必ずしもリターンに繋がるとは限りません。資金が尽きれば、そのプロジェクトは「斬殺」されるのです。

玄宇氏の言う「斬殺線」は、リーダーや市場の気まぐれな変化に近いものだといいます。2024年に彼が携わった3つのプロジェクトは、いずれもプレイヤーの支持を得られず、大きなプレッシャーに直面しました。「市場は私を鞭打ちすぎた」と玄宇氏は嘆きます。プロジェクトが不成功に終わる、あるいは古いプロジェクトが長期運営できない場合も、「斬殺」の対象となります。その原因は、開発中止、プレイヤーの不評、課金不振、定着率の低さなど、多岐にわたります。

一方で、10年経験の「老賊(ラオゼイ)」氏は、中国ゲーム業界には「実質的に『斬殺線』というものは存在しない」と断言します。なぜなら、「従業員は常に斬殺される可能性があるからだ」と。プロジェクトの「斬殺」は必ずしも開発者個人の能力不足によるものではなく、市場の残酷な淘汰の結果である場合が多いのです。

玄宇氏と老賊氏の共通認識として、中国国内のゲーム市場におけるプロジェクトの生存率は非常に低いとされています。老賊氏は3割未満、玄宇氏は悲観的に見てわずか15%と推測しており、このため多くの企業が海外市場へと活路を求めています。そして、プロジェクトの「斬殺」は、当然ながら携わる開発者たち、時にはプロジェクトチーム全体を巻き込みます。玄宇氏が知る多くの中小企業のプログラマーたちは、自らの意思ではなく「斬殺」されて転職を繰り返しています。

欢乐豆さんもまた、失業後の再就職活動で「斬殺線」の存在を痛感しました。彼女にとって「斬殺線」とは、「手持ちのカードや資本が特定の閾値を下回った時にゲームオーバーとなり、挽回が難しい状況」を指します。業界における「資本」とは、履歴書に記載される「タグ」のこと。有名企業での勤務経験、成功したプロジェクトのリリース経験、あるいはトップ大学の学歴といった「ブランド」がなければ、採用プロセスにすら進むのが難しいのです。これらの「タグ」を多く持っていればいるほど、リスクを回避できるという厳しい現実があります。

「換血」:ベテランが直面するコストカットの波

プロジェクト終盤の人員整理「換血」とは

企業がコストと利益を総合的に考慮し、一定規模の従業員を削減することを、老賊氏は「換血(かんけつ)」と呼びます。これは「輸血」を意味する言葉ですが、ここでは「血の入れ替え」つまり人員整理を指します。多くのプロジェクトで、リリース直前に「換血」が行われます。一般の開発者はこの兆候に気づきにくいものですが、老賊氏のような主要クリエイターは、その渦中に巻き込まれることがあります。

老賊氏は、自身がかつて主美(アートディレクター)としてプロジェクトリリース前の人員整理に関与した経験を語ります。会社の上層部から遠回しにコスト削減の必要性が伝えられ、最終的に彼はリストラ対象者のリスト作成を依頼されました。「チームに何人残せるかは、君がどれだけ交渉できるかにかかっている」と言われた彼は、自身も古いゲームのプレイヤーであるため、「竜を屠る者がやがて竜となる」という言葉の重みを痛感したといいます。

「コスパ」で測られるベテラン開発者の価値

欢乐豆さんの知る多くのベテラン社員も、同様にプロジェクトリリース前に「コスパ(費用対効果)」を理由に解雇されました。彼女は、新卒よりも経験年数の長いベテランの方が危険だと考えています。なぜなら、管理職に昇進して決定権を握らない限り、彼らは「コスパ」で評価されてしまうからです。

「多くのプロジェクトチームでは、管理職になれるかどうかは個人の能力だけでは決まらない。大げさに言えば、真面目に仕事をするよりも、上司に気に入られる方が早いかもしれない」と欢乐豆さんは指摘します。実際、主要クリエイターは固定され、他の開発者は毎年入れ替わるという現象が頻繁に起こっています。

会社にとっては、毎年古い人材を最適化し、若い人材に置き換えることは「コスパが良い」行為と映ります。なぜなら、会社の目標はコスト管理であり、提供されるゲームの品質は主要クリエイターが考える問題だからです。欢乐豆さんは、このような環境では、ベテラン社員が真面目に働き、能力を高めるだけでは業界に残るのは難しいと考えています。これは、彼ら個人の「斬殺」だけでなく、プロジェクトの未来そのものを「斬殺」していることにも繋がりかねません。

システムプランナーとして、欢乐豆さんはゲーム全体のシステム設計を担い、プレイヤーの興味を引くための数値調整も行います。これには豊富な経験に基づく判断が必要ですが、頻繁な「換血」で経験豊富な人材が失われ、新人やインターンでは単純作業しかできない状況が続けば、プロジェクトに更なるリスクをもたらし、裁員と業績悪化の悪循環に陥る可能性があると警鐘を鳴らします。

成功後も付きまとう「ダモクレスの剣」

爆発的ヒットでも安心できない理由

では、プロジェクト立ち上げ前の「換血」を免れ、運良く安定した運営を実現し、さらには爆発的なヒットを飛ばせば、開発者は「斬殺線」から遠ざかることができるのでしょうか?老賊氏によれば、むしろ「斬殺線」に近づくのだといいます。「たとえ一定の利益を出している製品であっても、その利益がいつまで続くかは未知数です」と老賊氏は語ります。

通常、プロジェクトが利益を出したとしても、そこで「横になる」(何もしない)ことはできません。次の製品計画が始まり、再びコストの厳密な計算が行われます。この段階で、プロジェクトに必要な人員が再評価され、リストラ(換血)プロセスに早期に入ることも少なくありません。

さらに老賊氏は、プロジェクトが実際に利益を出しているにもかかわらず、上層部から「利益が出ていない」と伝えられるケースもあると指摘します。あるプロジェクトが1000万元(約2億円)を稼いだにもかかわらず、開発チームは以前の別のプロジェクトのコストを負担させられ、結果的に800万元(約1.6億円)の負債を背負わされた、という事例もあります。利益は全て経営者の懐に入り、チームには何も残らなかったという、不透明な会計の現実も存在します。

中国ゲーム業界の未来と日本の教訓

中国ゲーム業界の「斬殺線」は、単なるプロジェクトの失敗以上の、開発者たちのキャリアと生活を脅かす深刻な問題です。市場の急速な変化、経営判断の移ろいやすさ、そして時に不透明な企業文化が複合的に絡み合い、ベテランも新人をも問わず、誰もが常に不安定な状況に置かれています。プロジェクトがリリースされなければ「斬殺」されないという皮肉な願望や、経験豊富な人材が「コスパ」で測られ「換血」される現実は、一見非効率に見えても、短期的なコスト削減を優先する企業の論理が深く根付いていることを示唆しています。

爆発的ヒットを飛ばした後でさえ、次の「斬殺線」が待ち受けているという話は、この業界の厳しさを物語っています。日本のゲーム業界もまた、グローバル市場や技術革新の波に晒されています。中国の事例は、私たち日本の開発者や企業にとっても、人材育成、長期的な視点でのプロジェクト運営、そして何よりも「人」を大切にする文化の重要性を再認識させる、貴重な教訓となるのではないでしょうか。

元記事: chuapp

Photo by Nicola Barts on Pexels

タグ付け処理あり:

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

AI特集

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

関連リンク

にほんブログ村 ニュースブログ ITニュースへ