最新のRTX 5090を導入しても「Unreal Engine 5(UE5)製ゲームは重い」というPCゲーマーの不満は後を絶ちません。この長年の疑問に対し、Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOが「エンジンの問題ではなく、開発者の開発プロセスに問題がある」と指摘し、波紋を呼んでいます。一体何が問題なのか?スウィーニー氏の真意と、開発者コミュニティからの様々な意見、そしてEpicが進める解決策を深掘りします。
UE5ゲームはなぜ重い?Epic CEOが語る「開発プロセスの問題」
PCゲーマーにとって、CPUやグラフィックボードの性能論争、操作方法の好みなど、意見が分かれる話題は数多くあります。しかし、Unreal Engine 5(UE5)製のゲームについては、「最適化が不十分で動作が重い」という共通認識が定着しているのが現状です。どれだけ高価な最新グラフィックボードを導入しても、ゲームのファン音の方がゲームサウンドよりも耳に残る、といった皮肉めいた声も聞かれます。
もちろん、この「汚名」をEpic Games社が背負いたくないのは当然でしょう。Epic GamesのCEO、ティム・スウィーニー氏は先日ソウルで開催されたUnreal Festで、UE5製ゲームの最適化問題について問われた際、その主な原因は「開発者が最適化を理解していない」点にあると指摘しました。
スウィーニー氏は、「UE5で開発されたゲームが一部のPCやGPUでうまく動作しない主な理由は、開発プロセスそのものに問題があるからだ。特にPCプラットフォームでは、多くの開発者がまずハイエンドなハードウェアをターゲットに開発を進め、低スペック環境での最適化やテストは最終段階まで後回しにされている」と説明しました。中国メディアGameLookの報道では、この発言は「UE5エンジンに問題はなく、開発者の技術レベルが未熟、あるいは開発方法に問題がある」と解釈できると伝えています。
「早期最適化」の重要性と、Epicが進める改善策
スウィーニー氏は、理想的な最適化は開発の早い段階、つまりコンテンツがほぼ完成する前に行われるべきだと強調しています。そして、Epic Gamesとしてもこの問題に真摯に取り組む姿勢を見せています。
Epic Gamesの具体的な取り組み
- クロスデバイスでの自動最適化機能を通じて、エンジン側のサポートを強化。
- 「早期最適化」を標準的な開発プラクティスとするため、開発者向けの教育プログラムを拡充。
- 必要に応じてEpicのエンジニアが直接開発チームを支援。
- 人気タイトル『フォートナイト』の開発で培った最適化ノウハウをUEエンジンにフィードバックし、低スペックPCでのパフォーマンス向上に役立てる。
スウィーニー氏の指摘は、厳密には間違いではありません。多くのスタジオでは、開発者自身が高スペックな開発環境を使用しているため、開発中のバージョンは快適に動作します。しかし、単一のハードウェアをターゲットとするコンソールゲームとは異なり、多種多様なPC環境に対応するためには、開発が終盤に差し掛かってから低スペック環境でのテストや最適化が行われることがほとんどです。しかしこの段階では時間的な制約も厳しく、十分な最適化が行き届かないままリリースされてしまうケースが少なくありません。
この最適化不足の典型的な例として、UE4で開発された『サイバーパンク2077』が挙げられます。発売当初のパフォーマンス問題は深刻で、ソニーが異例の返金対応を行う事態にまで発展しました。これにより、最適化の重要性が改めて浮き彫りになりました。
開発者コミュニティからの反論と、エンジンの課題
スウィーニー氏の発言に対し、一部の開発者コミュニティからは「責任転嫁ではないか」という声も上がっています。特に小規模な開発チームにとって、UE5の高度な機能を最大限に活かしつつ、様々なプラットフォームでの最適化を行うことは、膨大な専門知識と開発時間を要する巨大な課題となるからです。
開発者コミュニティからの主な意見
- Epicが宣伝していたNaniteやオープンワールドのストリーミング機能などが、デモほどの完成度に達しておらず、開発者がエンジンの潜在能力を十分に引き出せないケースがある。
- UE5.6といった将来のバージョンで、開発者を悩ませる多くの問題が改善されると噂されており、Epic自身もエンジンの弱点を認識している証拠ではないか。
- UE5製ゲームの動作不良の割合はUE4やUnity製よりも高く、Epic自身のUE5製ゲームでさえ問題を抱えている。これはエンジン側に少なくとも部分的な責任があることを示唆している。例えば、『Valorant』はカスタムレンダラーを使用しており、良好なパフォーマンスを発揮していることから、UE5の標準的なフォワードレンダラーに問題がある可能性も指摘されている。
一方で、多くの開発者は、開発プロセスにおいて低スペックデバイスへの早期最適化が十分に行われていない点が、各スタジオの主要な責任であることを認めています。なぜなら、すべてのプレイヤーが高性能なゲーミングPCを持っているわけではないからです。
実際、UE5の強力な機能にもかかわらず、大手開発会社は低スペック環境への最適化を重視しています。例えば、Epicのエンジンではないものの、EAが2025年10月に発売予定の『バトルフィールド6』は、レイトレーシング機能の搭載を初期段階で断念したと発表しました。開発チームは、リソースをパフォーマンスと安定性に集中させ、より多くのプレイヤーが快適にプレイできることを優先したと説明しています。これは、限られた高性能PCユーザーのためだけに最新技術を導入するのではなく、広範なプレイヤー層への配慮が不可欠であることを示唆する動きと言えるでしょう。
まとめ:進化するUE5と開発者の未来
「UE5ゲームの最適化が悪い」という問題は、Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOが指摘するように開発プロセスの問題が大きく影響している一方で、エンジン自体の成熟度や、小規模チームが直面する技術的・時間的な課題も深く関係していることが分かります。
Epicはエンジンの自動最適化機能の強化や開発者教育を通じて改善を図り、開発者側も早期最適化の意識を高めることが、今後より多くのプレイヤーが快適にゲームを楽しめる未来に繋がるでしょう。エンジンベンダーとゲーム開発チームが協力し、継続的に改善を重ねていくことが、高性能と幅広い互換性を両立させる鍵となります。
元記事: gamelook
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