近年、インディーゲームが世界的な大ヒットを飛ばすケースが増えてきました。『Among Us』や『Phasmophobia』、そして社会現象を巻き起こした『パルワールド』など、数々の成功事例が生まれています。しかし、これらの成功体験を持つ開発スタジオが、今、新たな動きを見せています。それは、自らが「パブリッシャー」となり、他の独立系開発者を支援するというものです。従来のパブリッシャーとは一線を画す「開発者目線」のサポートとは何か、彼らはどのようにしてインディーゲーム業界の常識を塗り替えようとしているのでしょうか。その革新的な戦略に迫ります。
開発者自身がパブリッシャーに?爆速成長の背景
独立系ゲームが大成功を収めると、その開発スタジオの運命は大きく変わります。得られた収益は、従業員の給与やボーナスに充てられたり、チームの拡大に使われたり、あるいは将来への備えとして蓄えられたりします。しかし、中にはその成功を活かし、他のインディーゲーム開発者を支援する「パブリッシング事業」に乗り出すスタジオも現れています。
例えば、『Among Us』のInnersloth、『パルワールド』のPocketpair、そして『Phasmophobia』のKinetic Gamesといった著名なインディーゲームスタジオが、自社の高い収益性を活用してこの分野に参入。さらに、人気ゲーム配信者のジェイソン・ガストロウ氏(通称「ゲームロバ」、YouTubeチャンネル登録者数700万人以上)が設立したBigmodeもこの流れに加わっています。
これらの新型パブリッシャーは、従来のパブリッシャーとは一線を画します。彼らが重視するのは、ゲームがどれほど多くの人々に受け入れられるか、あるいはどれほどの巨額の利益を生み出すか、という点ではありません。むしろ、イノベーションと開発チームの持続可能性に重きを置いています。
「誰かを助けたい」創業者の熱い思い
新型パブリッシャーが誕生した背景や創業者たちの動機は様々です。
- Outersloth(Innerslothの基金)のフォレスト・ウィラード氏: 『Among Us』が世界的にブレイクする前から、パブリッシング会社設立を構想していました。「ゲームに関する何かをしたい」という長年の夢が、2024年に独立系ゲーム基金Outerslothの設立として結実しました。
- Pocketpairのジョン・バックリー氏: 『パルワールド』の開発当初はパブリッシングを計画していませんでしたが、多くの開発者から資金援助を求められたことがきっかけで、パブリッシング部門の設立を決断。「『パルワールド』で大金を得た今、皆が資金に困っている中で助けになりたい」と語っています。
- Kinetic Gamesのダニエル・ナイト氏: 『Phasmophobia』の開発で直面した困難と課題から、独立系開発者の苦悩を深く理解しています。自身の経験から、持続可能なゲーム開発のノウハウを共有し、チーム規模の拡大と共にパブリッシング部門を立ち上げました。
- Bigmodeの共同創設者リア氏: 夫である人気ゲーム配信者のジェイソン・ガストロウ氏のもとには、多くの独立系開発者から苦境の相談が寄せられていました。「何らかの形で開発者と協力し、資金面などで助けられないか」という思いが、パブリッシング事業へとつながりました。
これらのエピソードからは、共通して「開発者の苦しみを理解し、助けたい」という強い願いが感じられます。
従来の常識を覆す「開発者フレンドリー」な契約
新型パブリッシャーが台頭する要因の一つは、従来のパブリッシャーとの契約形態にありました。デジタル配信が普及する以前、独立系スタジオは資金面で大手パブリッシャーに頼るしかありませんでしたが、ソニーやマイクロソフトといった巨大企業はリスクを嫌い、流行を追うようなゲームにしか投資しない傾向がありました。
過去10年間で、Devolver DigitalやAnnapurna Interactiveのような新しいパブリッシャーも登場し、ユニークなゲームを制作する小規模スタジオに機会を提供してきました。しかし、ゲーム業界全体が不安定な状況にあり、大規模な人員削減やプロジェクト中止が相次ぐ中で、多くのパブリッシャーが緊縮財政を敷いています。たとえパブリッシャーを見つけても、それがスタジオの長期的な存続を保証するものではありませんでした。
「コスト回収条項」の悪しき慣習からの脱却
従来のパブリッシャーとの契約には、開発者にとって非常に不利な「コスト回収条項」が頻繁に含まれていました。これは、ゲーム開発に費やされた時間と費用をパブリッシャーが回収するまで、ゲームの収益をパブリッシャーが優先的に全額受け取るというものです。ゲームが発売初日に利益を出しても、パブリッシャーが投資を回収し終えるまでは開発元には一銭も入らず、結果としてスタジオが倒産してしまうケースも少なくありませんでした。
しかし、新型パブリッシャーはこのような慣習を打ち破ります。
- Pocketpairのジョン・バックリー氏: 「私たちは開発者にそのような条項を受け入れるよう求めません。ゲームが発売された瞬間から、開発者はすぐに収益を得られます」と明言し、開発者に有利な収益分配比率を保証しています。
- Outerslothのヴィクトリア・トラン氏: Outerslothが提示する契約条件はあまりにも開発者にとって有利なため、なんと「相手側の弁護士から詐欺と疑われた」ことが二度もあったと明かしています。それほどまでに、彼らの契約は開発者寄りの内容なのです。
開発者の生存と持続的なクリエイティブ活動を第一に考える姿勢が、契約条件にも如実に表れています。
「次のヒット作」を追い求めない独自の選定基準
『フォートナイト』の成功は、無数の模倣作を生み出しました。多くのスタジオやパブリッシャーが、数億ドルを投じてオンラインサービス型ゲームを開発し、長期運営による高収益を夢見ました。しかし、ゲームの質の低さやプレイヤーの疲労感など様々な理由から、近年では多くのサービス型ゲームが「発売と同時に失敗」するか、開発段階で中止される事態に陥っています。例えば、ソニー傘下のFirewalk Studiosが8年と2億ドルを投じて開発したマルチプレイヤーシューティングゲーム『Starhawk』は、2024年のサービス開始から1ヶ月足らずで終了し、スタジオも閉鎖されました。
Outersloth、Pocketpair、Bigmode、Kinetic Gamesといった新型パブリッシャーは、「次の『フォートナイト』」を探すことには関心がありません。彼らがどのような種類のゲームと契約するかについても、明確な基準は設けていません。
「情熱」と「持続可能性」を重視
- Outerslothのフォレスト・ウィラード氏: 「私たちは多くのプロジェクトにオープンな姿勢で臨んでいます。何であれ、斬新で、何らかの形で私たちを惹きつけ、感動させるゲームを見つけようとしています」と語ります。Outerslothは、ゲームそのものの評価だけでなく、開発チームへの評価や尊敬から契約を決めることもあります。「私たちが『One Btn Bosses』と契約したのは、開発チームがそのゲームの売上にかかわらず、ゲームを作り続けるだろうと感じたからです。彼らの開発に対する情熱に、一度チャンスを与えたいと思いました」
- Pocketpairのジョン・バックリー氏: 彼もまた、作品に情熱を傾ける開発者との協力を強く望んでいます。多くのプロジェクト提案を見てきた中で、金儲けだけを目的としていると感じる開発者もいる一方で、わずか1つの提案で『Dead Take』(実写インタラクティブホラーゲーム)との契約を決めたと言います。「私と『Dead Ta(原文途切れ)』」
つまり、彼らは単に商業的な成功を見込むだけでなく、開発チームの創造性、ゲーム開発への情熱、そしてその持続的な活動を尊重し、支援しようとしているのです。
まとめ:開発者が開発者を助ける、共創のゲームエコシステムへ
『Among Us』や『パルワールド』といった大ヒット作を世に送り出した開発スタジオが、自らの成功体験と知見を活かし、新型パブリッシャーとしてインディーゲーム業界に新たな風を吹き込んでいます。
彼らは、従来のパブリッシャーが抱えていた「リスク回避」「不利な契約条件」「安易な模倣」といった課題に対し、「開発者目線での手厚いサポート」「公平で開発者有利な収益分配」「イノベーションと情熱を重視した選定基準」という形で応えています。これは、単なる資金提供にとどまらず、開発チームの成長と持続可能性を真に願う姿勢の表れと言えるでしょう。
この新しい動きは、独立系ゲーム開発者にとって、より公平でクリエイティブな環境をもたらす可能性を秘めています。日本のインディーゲーム開発者にとっても、新しい資金調達や市場参入の選択肢が増えることになり、業界全体の活性化につながるかもしれません。「開発者が開発者を助ける」という、共創的なゲームエコシステムの未来が、今、まさに始まろうとしています。
元記事: chuapp







