Home / テクノロジー / ゲーム / 中国ゲーム開発の最前線:ベテランシナリオライターが語る5年間の光と影

中国ゲーム開発の最前線:ベテランシナリオライターが語る5年間の光と影

Chinese game development studio game writer working - 中国ゲーム開発の最前線:ベテランシナリオライターが語る5年間の光と影

中国のゲーム業界は、世界を席巻するモバイルゲームを次々と生み出しています。しかし、その華やかな成功の裏には、クリエイターたちの壮絶な努力と葛藤が隠されています。今回ご紹介するのは、中国のモバイルゲーム業界で5年間、シナリオライター(中国語では「文案策划」と表現されます)として活躍してきた「虎鲸(フージン)」氏の経験談です。彼女は、まさに理想的なキャリアの始まりを迎えたかのように見えながらも、商業モバイルゲーム開発の最前線で多くの現実と課題に直面しました。夢を追い求めるクリエイターが語る、その光と影を深掘りします。

中国モバイルゲーム開発の理想と現実:5年間の軌跡

2018年に大学を卒業した「虎鲸」氏は、多くの若者と同じく、ゲーム制作への熱い憧れを抱いて業界に足を踏み入れました。当初は運営職に従事していましたが、データ分析や外部とのコミュニケーションよりも、物語を創り出す「開発」への情熱が強く、シナリオライターへの転身を決意します。当時のゲーム業界は今よりも機会が多かったものの、すでに第一線で活躍していた友人からは「大変な割に将来性がない」「労力と報酬が見合わない」と忠告されたそうです。しかし、「試さなければ分からない」と彼女は前進し、2020年頃、念願叶って二次元モバイルゲームプロジェクトにシナリオライターとして参加しました。

終わりのない業務量とコミュニケーションの苦悩

プロジェクトに加わってすぐに、友人の言っていた「大変さ」を実感することになります。残業は日常茶飯事、深夜まで働き詰めることも少なくありませんでした。仕事内容は膨大かつ煩雑で、単にテキストを作成するだけでなく、物語の各シーンにおけるキャラクターの動作や表情、カメラアングルに至るまで、細かな演出要求を詳細にドキュメント化する必要がありました。ある日には、一切休憩を取らずに明け方4時まで書き続け、締め切りに間に合わせたこともあったそうです。

若さゆえの衝動と、達成感から得られる喜びが彼女を支えました。上司からの賞賛、自身が書いた文章がゲーム内で動いているのを目にした時の感動、そしてSNSでプレイヤーから物語への感謝のコメントが寄せられた瞬間は、かけがえのないものでした。彼女はそうしたプレイヤーの「好評スクリーンショット」を専用フォルダに保存し、心が折れそうな時に見返していたと言います。

しかし、そうしたポジティブな感情も、長期にわたる仕事の消耗を相殺するには至りませんでした。シナリオライターの仕事は、実は多方面の「要望」をまとめ上げる調整役としての側面が強く、上層部、同僚、他部署からの様々な要求を調整し、会議を重ねて落としどころを見つける必要がありました。各部署間の認識のずれから摩擦が生じることも頻繁で、多くの感情的な意見の中から真意を読み解き、妥協点を見つけてプロジェクトを進める作業は、とてつもない精神的な負担を伴いました。日中のほとんどがこの頻繁で瑣末なコミュニケーションに費やされ、文章創作は残業や徹夜に頼るしかありません。5年間で、早く帰れる日で夜8時、一般的な場合は夜10時、12時、時には深夜に及ぶ退勤が常態化していました。柔軟な勤務体系が謳われていても、業務量が変わらないため、休みを取っても結局は帳尻合わせで働くことになってしまうのです。

クリエイターのジレンマ:地位とプロジェクト管理の課題

ゲーム業界では冗談交じりに「シナリオライターの地位が最も低い」と言われることがあります。もちろん、二次元ゲームのような物語重視のプロジェクトでは、叙事の観点から多くの提案を却下する権限もあり、物語に多くのリソースが注がれるケースもあります。しかし、「虎鲸」氏は、チームにおけるシナリオライターの立ち位置が微妙であると感じています。制作コストや他部署との連携を考えると、シナリオライターは妥協や譲歩を求められる場面が多く、大幅な修正や調整を余儀なくされるため、不本意な思いをすることも少なくありません。

また、シナリオ作成は、誰でも「自分にも少しはできる」と思われがちな仕事でもあります。プログラマーがアートに口を出すことは稀ですが、シナリオに対しては、様々な立場の人々が無意識のうちに「指導的な態度」で意見を述べてくることが頻繁にあると言います。最初は敏感に反論していた彼女も、今では「指導は受け入れるが、必ずしも従う必要はない」というスタンスで向き合っているそうです。

「修繕屋」と「シジフォス」の神話:終わりなきコンテンツ生産

この数年間で、「虎鲸」氏が強く感じたのは、シナリオライターが直面する固有の困難だけでなく、全てのクリエイターに共通する、より根深い問題です。その一つが「プロジェクト管理」の課題。特に中小規模のスタジオでは、PM(プロジェクトマネージャー)が統括しているにも関わらず、開発プロセスが混乱し、突発的な緊急タスクが頻発する傾向があるとのこと。「虎鲸」氏のプロジェクトも例外ではなく、多くの同僚が「毎日パッチを当て続ける修繕屋のようだ」と感じていると言います。例えば、「今日中にバージョンに組み込み、明日にはパッケージ化しなければならない」といった緊急のタスクが常態化し、結果として妥協を強いられることも多々あります。

彼女は、大手ゲーム会社、例えば「原神」を開発するmiHoYoのような企業では、工業化された開発体制により各部門がそれぞれの役割を全うすることで、安定して高品質なコンテンツを継続的に生み出していると指摘します。しかし、大手企業には別の問題も存在し、突然のプロジェクト中止による失業のリスクも。プロジェクトの早期打ち切りもまた、高度なプロジェクト管理の現れであると彼女は理解しつつも、クリエイター個人としてはその不安を受け入れるしかないと語ります。

シナリオライターの仕事は、「修繕屋」だけでなく、「シジフォスの神話」にも例えられます。重い石を押し上げても、終わりが見えない坂道のように、毎月新しいキャラクターやコンテンツを投入し、プレイヤーの課金を促すというビジネスモデルから逃れることはできません。コンテンツの更新が滞れば、プレイヤーは離れていってしまうからです。

この絶え間ないコンテンツ出力は、計り知れない精神的プレッシャーと消耗をもたらします。決して完結しない物語を紡ぐため、初期段階で大まかな方向性は設定されますが、物語が行き詰まることは避けられません。その度に新しいサブストーリーを開設し、別のキャラクターたちの行動を描き出すことで物語を継続させます。しかし、それらのサブストーリーも最終的にはメインストーリーと合流させなければならないため、難易度は依然として高いのです。

作成されたテキストは多段階のレビューを受け、既存のコンテンツとの整合性やキャラクター設定との乖離がないか、物語の論理が破綻していないかなどが厳しくチェックされます。このため、修正作業が頻繁に発生します。また、二次元ゲームは最終的に「キャラクターを売る」ビジネスです。プレイヤーに愛されるキャラクターを生み出すため、「萌え」「爽快感」「爆発力」といった要素を追求する傾向が強まります。しかし、短い尺の中でキャラクターの魅力を最大限に引き出すのは至難の業であり、多くのキャラクターは既存のテンプレートの焼き直しになりがちだ、と彼女は感じています。

まとめ:夢と現実の狭間でクリエイターが問いかけるもの

「虎鲸」氏の5年間の経験は、中国の商業モバイルゲーム開発が抱える複雑な現実を浮き彫りにしました。クリエイターとしての夢を追いながらも、過酷な労働環境、多岐にわたる調整業務、終わりのないコンテンツ生産のプレッシャーに直面する。そして、プロジェクト管理の課題や、個々のクリエイターが「代替可能」な存在になりがちな現状は、日本のゲーム業界にも共通する課題意識を投げかけているのではないでしょうか。

彼女の言葉からは、ゲーム開発というクリエイティブな仕事が、いかに多くのビジネス的制約の中で行われているかが伝わってきます。しかし同時に、プレイヤーからのフィードバックや、自らの創造物がゲームとして形になる瞬間に感じる「やりがい」が、彼女を奮い立たせていることもまた事実です。

今後、中国のゲーム業界がさらに発展する中で、クリエイターがより健全な環境で、その才能を最大限に発揮できるような変化が生まれるのか。そして、日本のゲーム業界もまた、他国の事例から何を学び、どのような未来を描くべきか。虎鲸氏のリアルな体験談は、私たちに深く問いかけています。

元記事: chuapp

Photo by Mikhail Nilov on Pexels

タグ付け処理あり:

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

AI特集

メーリングリストに登録

毎週のニュースレターで最新情報をキャッチアップ。今すぐ登録して、大切な情報を逃さずチェック!

利用規約に同意します

関連リンク

にほんブログ村 ニュースブログ ITニュースへ