中国の人気ゲームメディア「chuapp」編集部のコラム「触乐怪话」から、編集者・陳静氏が体験した「情感本」のレポートをお届けします。「情感本」とは、中国で爆発的な人気を誇る体験型ゲーム「劇本殺(マーダーミステリー)」の一ジャンルで、謎解きよりもキャラクターの感情や人間関係に焦点を当てたものです。
これまで推理型のマーダーミステリーやTRPG(テーブルトークRPG)の経験はあったものの、「情感本」は初挑戦だったという陳静氏。事前の情報収集をせず、ミステリー小説のように「事件は単純で、人間関係が複雑な物語」と安易に想像していたそうです。しかし、いざプレイしてみると、その想像とは全く異なる体験が待っていました。
謎解きを封印?「情感本」の衝撃
「情感本」を始めた陳静氏が直面したのは、これまでの推理ゲームの常識が通用しない状況でした。シナリオを読み進めても、なかなか死者も密室も現れず、捜査が始まる気配もありません。ゲームマスター(DM)から「このシナリオに死者はいないし、捜査も不要です」と聞かされても、推理脳がすぐに切り替わらなかったと語っています。
小道具が渡されれば、中に手がかりのメモが隠されているのではないかと疑い、開けて確認しようとしてしまう。推理ゲームで培われた習性が、無意識のうちに出てきてしまったようです。このエピソードからも、「情感本」がいかに従来のマーダーミステリーとは異なるアプローチを持っているかがうかがえます。
激しい感情と「安全」な没入感のバランス
「情感本」という名前の通り、その「感情」の振れ幅は非常に激しいものでした。体験したシナリオは、世界の終焉、天地崩壊、国をかけた復讐劇、記憶喪失など、涙腺を刺激するようなドラマチックな要素がこれでもかと詰め込まれていたそうです。普段から涙もろいという陳静氏は、物語の登場人物の運命に感情移入し、止めどなく涙を流したと告白しています。
しかし、その一方で陳静氏は、物語の背景が壮大であるにもかかわらず、それがキャラクターの性格や選択に明確な影響を与えているとは感じなかったと指摘します。まるで、感情の「スペクタクル」を見るための舞台装置のように感じられた、と。「もっと危機的な状況であればこそ、些細な人間の行動が心に響くのではないか」と語り、中国の古典小説『傾城の恋』を引き合いに出して、より複雑でリアルな感情描写への思いを馳せています。
しかし、この「浮遊感」こそが「情感本」の魅力であり、その人気の秘訣でもあると陳静氏は結論付けています。架空の世界、架空の災害や対立は、プレイヤーを現実世界から切り離し(「出戏」)、同時に物語への没入感(「入戏」)を高めます。現実のしがらみや合理性を考える必要はなく、目の前で展開される激しい感情にだけ集中できる。この「安全な没入感」は、まるで夏の40度の日に飲む冷たいコーラのように、爽快で心を解放してくれるものだと表現しています。
広がる体験型ゲームの可能性
今回の体験を経て、陳静氏は「情感本」が人気を集める理由を理解しつつも、個人的な好みとしてはTRPGやボードゲーム、推理型のマーダーミステリーを優先すると述べています。それでも、友人に誘われれば「情感本」も選択肢の一つにはなるだろうと語っており、その体験には一定の価値を見出しているようです。
中国で独自の進化を遂げる「劇本殺」は、推理だけでなく感情に特化した「情感本」のような多様なジャンルを生み出しています。日本のボードゲームや体験型ゲーム市場にも、このような新しい遊び方がもたらす影響は大きいかもしれません。ユーザーの様々なニーズに応えることで、体験型ゲームの可能性はさらに広がっていくでしょう。
元記事: chuapp
Photo by Sóc Năng Động on Pexels












