中国ゲーム業界を席巻したオープンワールド開発ブーム。2020年の『原神』成功を契機に多くのプロジェクトが立ち上がりましたが、5年が経過した今、多くの開発チームが解散し、半数以上が頓挫しています。一体なぜ、中国製オープンワールドゲームの開発はこれほど「難産」なのでしょうか?市場の狂乱から理性への回帰、そしてその裏に潜む技術的・構造的課題を深掘りします。
『原神』が火をつけたオープンワールドブームの光と影
2020年にmiHoYo(ミホヨ)の『原神』が大成功を収めたことで、中国ゲーム業界はオープンワールド開発の「狂熱」に沸き立ちました。多くのゲームメーカーが「次の『原神』」を目指し、こぞってプロジェクトを立ち上げたのです。しかし、その熱狂の陰で、現実の厳しさが突きつけられています。不完全な統計によれば、2024年以降、実に37以上の開発チームが解散し、半数以上のオープンワールドプロジェクトが停滞または中止に追い込まれている状況です。
確かに、『鳴潮』や『燕雲十六声』のように市場で存在感を示す作品や、『白銀之城』、『異環』といった独自路線で注目を集める作品も登場しています。しかし、その成功の裏には、はるかに多くの「屍」が積み重なっているのが実情です。オープンワールドプロジェクトは、「極めて高いリスク」と同時に「極めて大きな成功」という二つの顔を持つと言えるでしょう。
なぜオープンワールドを目指したのか?
中国ゲーム市場は過去10年で急速に発展し、カジュアルゲームから、より複雑で没入感のある体験を求めるヘビーユーザー向けへと進化しました。MMOやカードゲームが既にレッドオーシャン化し、ユーザー獲得のための広告費(中国では「買量」と呼ばれます)が高騰する中で、ゲームシステムも似たり寄ったりになり、業界の成長はほぼ停滞していました。市場は、新たなヒット作によって活路を見出すことを強く求めていたのです。
そんな中、『原神』が市場の中心に登場し、ゲームプレイの観点から「オープンワールド」が次の時代の主流になり得ることを示唆しました。一部の経営者層は、オープンワールドが「低コストでユーザーを獲得できる」という認識を抱き、安易な参入を促したケースも少なくありませんでした。しかし、この「低コスト広告」の機会は非常に短く、競合他社の開発スピードに先んじてプロジェクトを完成させ、市場投入するスピードが強く求められることになります。
技術的障壁と開発体制の課題
「コピー&ペースト」が通用しない技術の壁
従来の中国MMO開発では、高度に成熟した製品特性として、コアコンテンツが似通っている傾向がありました。これは、開発エンジニアが過去の複数のプロジェクトで蓄積した豊富なリソース(美術アセット、企画ドキュメント、プロジェクトコードなど)を流用し、効率的に「着せ替え」を行う手法が広く用いられてきたためです。中には、異なる会社間での非公式なコード共有や流用も横行し、驚くべき開発効率を誇ることもありました。
しかし、オープンワールド開発では事情が大きく異なります。miHoYoのような大手企業は、社内情報やプロジェクトコードに対して非常に厳格な機密保持体制を敷いています。これにより、従業員と外部の同業者との交流が制限され、核となる工程コードが外部に流出することは事実上不可能です。他のゲーム開発会社も同様か、さらに厳格な制度を採用しています。結果として、多くの中小規模のプロジェクトチームにとっては、オープンワールドプロジェクトで直接参照できる既存のコードやアセットはほとんどなく、「宿題を写す」ような行為は困難となりました。製品間の競争は、純粋な技術力のぶつかり合いへと転換したのです。
特に大きな技術的課題となるのが、従来の「読み込み画面を挟んでシーンを切り替える」方式から「シームレスなオープンワールド」への転換です。オープンワールドでは広大なマップを一括でメモリに読み込むことは現実的ではないため、プレイヤーの移動に合わせて周辺の地形を動的に読み込み・解放する「動的ローディング」が必須となります。これは、編集ツールでオープンワールドシーンを数十の区画に分割し、プレイヤーの現在位置に応じて、その足元と周囲8方向、合計9つの区画をプログラムが自動的に読み込むというものです。プレイヤーが移動するにつれて、新たに近づいた区画を読み込み、遠ざかった区画を解放する作業が継続的に行われます。
この基本ロジックは、モデル密度、ライティング、シーン表示距離、LOD(Level of Detail)、さらにはiOS/Androidデバイスごとのメモリ配分など、多岐にわたる複雑な問題を引き起こします。開発エンジニアは絶え間ない最適化を強いられ、少しでも最適化が不十分だと、高スペックデバイスでも動作が重くなったり、発熱したりといった問題が発生し、中低スペックデバイスではプレイすら不可能になるという事態を招きます。技術的な課題は最も厳しく、回避できない困難ですが、純粋な論理問題であるため、努力と試行錯誤を通じて解決の方向性を見出すことは可能です。
混乱する開発体制と増大する人的リソースの要求
オープンワールドという新たな命題に対し、ほとんどのチームは倉促の対応を迫られ、その多くが「システム的な学習と訓練」ではなく「大量の失敗と試行錯誤」を通じて、手探りで道を探る状況に陥っています。多くの初期段階で確立すべき規範や、プロジェクト全体を支える基本的なインフラ整備が、タイトな開発スケジュールと限られた人的リソースの前に犠牲になってしまいました。
一般的に、中国のゲーム開発では「老板(社長)」の意向がプロジェクトの立ち上げ段階を強く牽引することが多く、チームメンバーはそれに従って進む傾向があります。そのため、多くのオープンワールドプロジェクトは、社長の強い意思によって初期段階を乗り切り、デモ版完成まではスムーズに進む傾向があります。しかし、そこから先、広大なオープンワールドを実際に構築し、コンテンツを充実させる段階では、従来のMMOプロジェクトとは比較にならないほど大規模な開発チームが必要となります。
従来のMMOプロジェクトでは、100人規模の開発チームでもかなりの規模とされていました。しかし現在、2025年の時点で、『鳴潮』のような最先端のオープンワールドゲームの開発チームは800人以上もの規模に達しています。もし中規模のオープンワールドプロジェクトで、社長が500人規模のチーム予算を組んだとしても、人事部門は従来の5倍にもなる人員を確保するための努力を強いられることになり、人材確保の難しさが浮き彫りになります。
まとめ:中国ゲーム業界の成熟と新たな挑戦
中国のオープンワールドゲーム開発が直面している「難産」は、単なる技術力の問題に留まらず、業界全体の構造的な変化、経営層の認識とのギャップ、そして急速な市場の変化に根差しています。安易な「低コスト広告」の神話が崩れ去り、純粋な技術力と大規模な開発体制が求められる時代へと突入したと言えるでしょう。
しかし、この困難な状況を乗り越え、独自のイノベーションを追求するプロジェクトも確かに存在します。これは、中国ゲーム業界が単なる「模倣」から「創造」へと、より成熟した段階へと移行しつつある証拠とも言えるでしょう。日本市場においても、中国製オープンワールドゲームの品質向上は、競争の激化を意味すると同時に、新たな協力や競合の機会を生み出す可能性があります。今後の動向は、世界のゲーム産業全体に大きな影響を与えることになりそうです。
元記事: chuapp
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