中国の高性能GPUメーカー「沐曦集成電路（Muxi）」が、上海証券取引所への上場申請審査を10月24日に控えているというニュースは、世界の半導体業界に大きな注目を集めています。AMD出身のベテラン技術者たちが立ち上げた同社は、フルスタックのGPU開発を強みとし、教育、金融、交通、医療など幅広い産業分野への応用を目指しています。約800億円に上る大規模な資金調達を通じて、次世代GPUの開発と産業化を加速させる計画ですが、現状は赤字経営が続き、単一製品への高い依存度という課題も抱えています。このIPOが、中国の半導体自給自足の夢、そして世界のGPU市場にどのような影響を与えるのか、その動向に注目が集まります。
中国GPU新星「Muxi」とは？その挑戦と強み
中国の高性能GPUメーカー、沐曦集成電路（上海）股份有限公司（以下、沐曦股份：Muxi）が、上海証券取引所への上場に向けて大きく動き出しました。上海証券取引所の発表によると、10月24日に上場審査委員会で同社の申請が審議される予定です。これは、中国の半導体産業における自給自足戦略、特に高性能GPU分野における大きな一歩として注目されています。
AMD出身の精鋭が率いる技術力
沐曦股份は、2020年に陳維良氏、彭莉氏、楊建一氏の3名によって上海で設立されました。彼らは全員、世界的な半導体大手AMDで10年以上の経験を持つベテランエンジニアです。特に創業者である陳維良氏は、AMD上海社でシニアディレクターを務め、GPUの設計と製品開発を統括。15種類もの高性能GPU製品のテープアウト（設計完了から製造工程への移行）と量産を成功させた実績を持っています。このような経験豊富なチームが、独自の技術でフルスタックの高性能GPUチップとコンピューティングプラットフォームを自社開発している点が、同社の最大の強みと言えるでしょう。
同社の製品ラインナップは多岐にわたります。AI推論向けの「曦思（Xisi）Nシリーズ」、AIトレーニングと汎用計算をカバーする「曦雲（Xiyun）Cシリーズ」、そしてグラフィックレンダリング用の「曦彩（Xicai）Gシリーズ」を展開し、計算（トレーニング、推論、汎用計算）とレンダリングの全領域での応用を目指しています。教育研究、金融、交通、エネルギー、医療健康、エンターテイメントなど、幅広い産業分野での導入を計画しており、その高い汎用性が期待されています。
急成長の裏に潜む課題と展望
今回のIPO申請では、沐曦股份は最大4010万株のA株普通株式を発行し、約39.04億元（日本円で約800億円）もの大規模な資金調達を目指しています。この調達資金は、主に新型高性能汎用GPUの研究開発および産業化プロジェクト、次世代AI推論GPUの研究開発および産業化プロジェクト、さらにはフロンティア分野や新興アプリケーション向けの高性能GPU技術研究開発プロジェクトに充当される計画です。この大規模投資は、同社が描く未来のGPU市場での存在感を高めるための重要な一歩となります。
投資を続ける赤字経営と単一製品への依存
しかし、成長の裏には課題も存在します。現在の沐曦股份は、積極的な研究開発投資のため、残念ながら赤字経営が続いています。2022年から2024年にかけての売上高は急成長を見せていますが、純損失も拡大傾向にあり、2025年第1四半期も同様の状況です。このような状況での上場は、投資家から今後の収益化戦略に対する明確な説明が求められることになります。
また、同社の売上構成を見ると、特定の製品ラインへの依存度が高いことがうかがえます。特に「曦推一体」シリーズ（AIトレーニング・推論一体型GPUボードカードおよびGPUサーバー）からの収益が圧倒的で、2025年第1四半期には総売上の97.55%を占めています。これは、現時点では特定の市場ニーズに強く対応していることを示しますが、同時に市場の変化や競合の台頭によるリスクを高める可能性も秘めています。今後、幅広い製品ラインからの収益を確立し、リスク分散を図ることが重要となるでしょう。
まとめ
沐曦股份のIPOは、中国が半導体分野での自立を目指す上で象徴的な出来事です。AMDでの経験を持つベテランチームが率いる技術力と、大規模な資金調達による積極的な研究開発投資は、今後のGPU市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めています。現在の赤字経営や単一製品への依存という課題を乗り越え、いかに収益化を実現していくかが、同社の成功の鍵となるでしょう。日本の半導体業界にとっても、中国市場の動向、特に国産GPUの進化は、技術競争やサプライチェーン戦略において無視できない要素となるはずです。Muxiの挑戦が、世界のテクノロジーエコシステムにどのような波紋を広げるのか、その動向に引き続き注目が集まります。
元記事: pedaily
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