中国ゲーム業界でこの一週間、非常に大きな動きがありました。政府によるAIネイティブゲーム開発への強力な後押し、大手企業の業績における明暗、miHoYoの注目新作発表、そしてテンセントの日本拠点拡大とカプコン出身のベテラン開発者集結など、日本の読者にとっても見逃せないニュースが満載です。進化し続ける中国ゲーム業界の「今」を深掘りし、その背景にあるトレンドを探ります。
中国ゲーム業界の光と影:政府支援から新作・業績まで
AIネイティブゲームに注力!廈門市の強力な産業振興策
8月27日、中国の廈門(アモイ)市はゲーム産業の発展を促進するための新たな政策「廈門市ゲーム産業の質の高い発展を促進するための若干の措置(意見募集稿)」を発表しました。この措置は、全産業チェーンの発展、支援システムの整備、そして良好な開発環境の構築という3つの側面から、計10条の具体的な施策を打ち出しています。
特に注目すべきは、AIネイティブゲーム分野への加速的な投資です。国家インターネット情報弁公室に登録されたAIモデル製品を購入するゲーム企業には、購入費用の30%(年間最大200万元、約4000万円)の補助金が支給されます。さらに、ゲームの海外展開を積極的に行う企業には、国際展示会出展やESG(環境・社会・ガバナンス)などの国際認証取得費用が補助されるほか、優秀なゲーム開発人材の誘致・育成には最大80万元(約1600万円)の奨励金が与えられます。
廈門市は、かつて4399や吉比特といった有名企業を輩出した、比較的早期からゲーム産業が発展した地域です。今回の政策により、地元企業の競争力が一層強化されることが期待されます。
明暗分かれる大手ゲーム企業:中手游の苦境と巨人網絡の躍進
大手ゲーム企業の業績は明暗が分かれました。中手游(CMGE)は2025年上半期決算で、6.38億元(約127億円)もの巨額な純損失を計上。これは主に、自社開発のオープンワールドゲーム「仙剣世界」の失敗が原因です。同作は2月のリリース後、ゲームプレイの欠陥やバグの多発によりプレイヤーからの評価が急落し、初週のiOS売上はわずか125万元(約2500万円)と期待を大きく下回りました。この失敗により、中手游は240人の開発チームを削減し、高額な補償費用を支払うことになりました。
一方、巨人網絡(Giant Network)は好調を維持。2025年上半期決算では、営業収益が16.62億元(約332億円)と前年同期比16.47%増、純利益は7.77億元(約155億円)と8.27%増益を達成しました。同社の主力IP「征途(Zhengtu)」シリーズはユーザーの定着率を向上させ、旗艦モバイルゲーム「原始征途」は上半期で2000万以上の新規ユーザーを獲得し、月間売上1億元(約20億円)を安定して維持しています。
新作の「超自然行動組(Supernatural Action Team)」も「中国風の微ホラー+協力プレイ」という独自性で市場を開拓し、iOSゲーム売上ランキングで一時4位に達するなど勢いを見せています。巨人網絡は、AI技術をゲーム開発に深く統合し、市場トレンドに合った質の高いゲームを継続的に提供する方針です。
注目新作情報:miHoYo「崩壊:因縁精霊」と新たな「捉寵」トレンド
8月29日、世界的ヒット作「原神」を手掛けるmiHoYoは、「崩壊」IPの新作「崩壊:因縁精霊(Honkai: Soulflame Elixir)」の実機デモPVを公開し、テスト参加者の募集を開始しました。公開から数時間でPVの再生回数は300万回を突破するなど、大きな注目を集めています。
本作は「崩壊」シリーズの世界観を受け継ぎつつ、海辺の町と多次元世界を舞台に展開。最大の魅力は、さまざまな姿をした愛らしい「精霊」たちで、主なゲームプレイは「オートチェス」形式に、精霊たちを操作するレースやシューティングなどのミニゲームが組み合わされているようです。
今年の夏は、中国で「二次元+モンスター育成・捕獲(捉寵)」ジャンルがトレンドとなっており、蛮啾(Manjuu)の「ブループロトコル」も版号(ゲーム発売許可)を取得しテスト段階に入っています。テンセントも「ロクメイワールド:世界」で同様の方向性を模索するなど、この新ジャンルから目が離せません。
カプコンのベテラン集結!テンセントLightSpeed Japanが大阪に新拠点を設立
テンセントの傘下にあるLightSpeed Japanは8月26日、大阪に新たな開発拠点「大阪分部」を設立することを発表しました。LightSpeed Japanは2024年11月に設立され、「ドラゴンズドグマ」や「デビルメイクライ」シリーズなどで知られる元カプコンのベテランプロデューサー伊津野英昭氏がトップを務めています。
大阪分部の設立に合わせ、同社はさらに多くのカプコンOBを招集。中には「デビルメイクライ」シリーズや「ドラゴンズドグマ」の脚本に携わった森橋ビンゴ氏、「デビルメイクライ」や「ストリートファイター」シリーズのキャラクターデザインを担当した池野大悟氏、「ストリートファイター」シリーズのイラストやアニメーションを手掛けたGouda Cheese氏といった、業界のレジェンド級クリエイターたちが名を連ねています。
伊津野氏は、テンセントLightSpeedの強力な開発力とグローバルネットワークを活用し、優れたチームと共に新たなオリジナルAAAアクションゲームを創造することに意欲を見せています。日本の熟練開発者と中国の巨大資本の融合が、どのような新しいゲームを生み出すのか、期待が高まります。
まとめ:進化を続ける中国ゲーム業界の今後
今週のニュースからは、中国ゲーム業界が政府の強力な支援、企業の熾烈な競争、そして技術革新の波の中で、絶えず進化を続けていることが浮き彫りになりました。特にAIネイティブゲームへの投資や、「捉寵」のような新ジャンルの台頭は、今後のゲーム開発の方向性を示す重要な指標となるでしょう。
テンセントLightSpeed Japanの大阪拠点設立に見られるように、中国の大手企業が日本の優れた開発者や技術と連携を深める動きも加速しています。これは、日本のゲーム開発者にとって新たな活躍の場が広がる可能性を秘めていると同時に、日本のゲーム市場にも新たな刺激と競争をもたらすかもしれません。中国ゲーム業界のダイナミックな変化は、今後も目が離せないホットなトピックであり続けるでしょう。
元記事: chuapp
Photo by Pavel Danilyuk on Pexels